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そのデザインは、利用者の人生につながっているか

by inayamablog, 2013年6月26日

「いらっしゃ~い」

施設長に案内されて、日本家屋の広い玄関といった佇まいの入り口で靴を脱いでいると、
そんな声で迎えられました。

「保護者の方です」

我が家のように迎えてくださったその方は、このケアホームに住む利用者のご家族でした。
その温かく、弾んだ声。

荷物を届けにか、何かの用でたまたま訪問した際に、前触れもなく現れた見学者を、
心からの歓迎で、自然に、なんとなく誇らしげに迎えてくださるその声に、
こちらも温かな気持ちになりました。

確かに、“ご両親が自慢したくなるすばらしい住まい”です。

すぐ隣にある生活介護の事業所を見学した後、良かったらついでに、と案内して
いただきました。

岐阜市のいぶき福祉会さん。

リビング・ダイニングには4人がけのテーブルが4つあります。
リビングともつながっている和室には大きな液晶テレビ。

・ダイニングテーブルがひとつあれば食事はできる。けれど、他人同士が適度な
距離感を保ちながら心地よく暮らすには、このくらいの空間が必要。

・今は実家と行き来できる。けれど、将来のことを考えたら、私物を十分収納できる
造りにしておくべきだ。

・水周りは特に清潔を保てるようこだわった。

・イニシャルコストは高くても、利用者の負担を考えて、光熱費を抑えられる構造にした。
30年経てば、その意味がわかる。

「自分の家ではなく、利用者の家なので、妥協したくなかった。」
と北川施設長はおっしゃいます。

いぶき福祉会は「招き猫マドレーヌ」や「百々染」など、抜きん出た高品質の自主製品と
巧みなプロモーションで、全国から注目を集める法人です。

けれど、私が最も感動するのは、「何のためにそれを行うのか→すべては利用者の豊かな
人生のため」という一点に集中し、謙虚に利用者に向き合っているところ。

ケアホームを見学して、「ああ、やっぱりそうなのだ」と感動がさらに深まりました。

百々染、紙すき、ジャム、和菓子の製造・販売は、生活介護の利用者の仕事。
障害程度区分5、6の方が8割という中で、「工賃を上げたい」とおっしゃる。

「このケアホームで暮らすのに必要なお金」という明確な目標があるので、職員もぶれない。
工賃アップは目的ではなく手段である。
きれいな布、ユニークなマドレーヌ、洗練されたデザイン。
すべては目的に基づくアクション。

朝からぐるっと、法人内の事業所と生活の場を見学して、そのことを教えていただきました。

北川施設長は静かに言います。

「自分がやっているのはビジネスじゃなく福祉。そのことを命の重たさをもって、ここの利用者が教えてくれる。利用者の人生に責任があるのだから、やるしかない。」

「利用者の人生に責任を持つ」なんてことは軽々に言えません。
ただ、私も、利用者の人生に影響する仕事をさせていただいているという
自覚はあるつもりです。

それがプレッシャーであり、原動力でもあります。