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「消極的な興味」を「積極的」に変える演出

by inayamablog, 2013年2月25日

今年もひな祭りのシーズンが近づきましたね。
この時期になると、「買う気がない客を一気にその気にさせる販売手法」を目の当たりにして驚き苦笑した「あの日」のことを思い出します。

と言っても、今日は「どうやってお菓子やパン、その他の自主製品を巧みに売るか」という
話ではなく、雇用支援に絡めて「あの日」のご紹介をしようと思っています。「身体障害しか
興味のない企業」「面倒だなあ。できるだけ簡単に数だけ増やしたいなあと思っている企業」
にどうやって知的、精神、発達障害の利用者(登録者)の雇用をその気にさせるか・・という話です。

赤ちゃんの初正月には、昔から男の子に破魔弓(はまゆみ)、女の子に羽子板を贈ってお祝いをする風習があります(今どきはそんなことしないのかもしれませんが)。

娘が生まれた年の暮れ、父は「羽子板を買う」と私たちを呼び、人形屋さんに連れて行きました。
老舗人形店に恐る恐る入っていくと、破魔弓、羽子板がずらっと並んだ店内。
妙齢の販売員さんたちが満面の笑顔で迎えます。

店員さんから軽く説明を聞き、好きなのを選べといわれても、よくわからないので、
適当な値段の商品を選びました。

その間、あちらこちらで店員の皆さんの笑顔&「かわいいわね」のさりげない連呼。

じいじ、至福の瞬間です(笑)。

包んでもらっている間に、これまた、さりげなく声がかかる。

「まだ全然慌てることはないんですけれど、上の階にひな人形も少しだけ飾ってありますの。
今シーズンの新作もありますし、ちょっとのぞいて行かれませんか?」

気分の良いじいじ。どうせお節句までには買うことになるのだから、見ておくか・・とスタスタ店員さんについていく・・私たちもついていく・・

エレベーターが開くと、そこは「完璧に作りこまれた雛人形売場」でした!

安価なものから、徐々に高価なものへ、親王・姫だけのもの、三段飾り、七段飾り、大きさも衣装も異なるたくさんの人形たちが美しく飾られていました。「順路」に沿って案内されていくうちに、「ちょっと覗く」どころか、どの辺りのランクにしようか、どのデザインにしようか、とすっかり品定めに入っていた親子なのでした。

「1月×日までにご購入されると、全商品30%引き。送料無料、○○のおまけつき」と、
年明け商談会のご招待券をいただいて、丁重に見送られました。
年が明けるとそそくさ再訪し、めでたく雛人形を購入したことは言うまでもありません。

父は、とても豪華な雛人形をとても上機嫌で娘に買ってくれました。

年に一度飾るたびに、あのやや強引な、よくできたマーケティングを思い出します。
さて、ここからが応用編です。

・普段あまり馴染みがない商品
・購入経験がなく、商品知識も全くない
・いずれ買うつもりだけど、まだ買う気になっていない(購入には消極的)
・この段階では商品の質や中身はどうでもいいと思ってる

羽子板を買いに来たイナヤマ家の人々、「2%目前で、そろそろ雇用に向けて何か
しないとなあと思っている中小企業の人事担当者」となんか似てませんか?(笑)

乱暴ですが、「雛人形たち」を「就労を控えた皆様方の事業所の利用者さんたち」に
置き換えてみてください。

まだ日はあるし、そのうち考えようと思っていたイナヤマ父をすっかりその気にさせた
ポイントは3つ

①「羽子板」が呼び水
②見るだけでいいですから・・と誘って商品に触れる機会をつくり、商品知識を提供する
③「今が買い時」の理由をつくり、購入を決めさせる

就労支援だったら、

①は、実習とか雇用の勉強会とか事業所見学会みたいなことでしょうか?
消極的だけど、何か動かないとなと思っている担当者との接点を作る企画ですね。

②がポイント中のポイント。相手は、「車椅子と白杖」くらいのイメージで障害者雇用を
考えているかもしれませんから、「知的・精神・発達の皆さんがいかに働けるか、企業は
どうサポートすればいいのか」をプロの専門性に裏付けられた確かな知識で、わかりやすく
伝えることが重要です。誤解を恐れずいえば、ここで無知のお客様に「すごい!」と言わせ
る演出ができるといいのだろうなあと思います。

ただし、押し売りは禁物。相手に考える時間を与えます。

そして③。「来月あたりから、6.1に向けて求人が一気に増えるので、今訓練中の利用者も
どんどん就職が決まっていきます。いずれ雇用をお考えでしたら、早目のご対応がいいと思い
ますよ」みたいなことでしょうか?

展示フロアのエレベーターを降りたときの「わあ、すごい!きれいね~」という驚き。

見るだけだったはずなのに、気づけば、展示商品を真剣に見入ってしまった、あの演出。

滑らかなトーク、信頼感のある落ち着いた対応。なんせこっちは質問もできないくらいど素人
ですが、いちいち丁寧に教えてくれる接客力。

スポットライトを浴びたひな飾りは本当に美しく光って見えました。

その気になっていないニーズをその気にさせるには、相手の心を動かす仕掛けや工夫が必要。
そのためにもっと知恵を使わないといけないのだろうなあと思います。